海苔生産の流れ

ピノリちゃん

PROCESS

FLOW

「海苔」は知っているけれど、海苔がどのように作られて食卓まで届くかを
知っている方は少ないのではないでしょうか。
そこで、海苔ができるまでを順を追ってみてみましょう。

FLOW 01

春、海苔の葉体が成熟し、その先端からオス・メスのある有性胞子が放出されます。その有性胞子が接合し、果胞子になります。この果胞子はかき殻にもぐりこみます。
かき殻にもぐりこんだ果胞子はその殻の中で糸状体になって成長します。 糸状体とは、読んで字の如く胞子が糸状の形になることをいい、海苔のタネ(胞子)は、夏の間、“糸状体”となって過ごします。夏の海では海苔が見られないのは、貝殻のなかにもぐり込んでしまっているからなんです。

海苔の養殖は、まず、かき殻に糸状体をもぐりこませることから始まります。
海苔は海藻の仲間なので、糸状体も光合成をして栄養(窒素、リン)を吸収します。ですから、カキ殻糸状体を育てるとき、海苔が病気や栄養不足にならないように、海苔の健康管理に十分気をつけます。真っ白だったかき殻が徐々に海苔の胞子(黒い斑点)が現れ、約3カ月で写真2のように真っ黒になります。

  • (写真1. 5月~8月)
    5月頃になると、真っ白いカキ殻に少しずつ胞子の黒い斑点が現れはじめます。
  • (写真2. 8月頃)
    海苔のタネ(胞子)は、カキ殻の石灰質を溶かして生長します。約3カ月で真っ白だったカキ殻は、こんなに真っ黒に海苔のタネで覆われます。
  • (写真3)
    写真2の時の海苔の胞子を顕微鏡で見ると、こんな感じです。

FLOW 02

海水温が下がる9月半ば頃から10月上旬になると、成長した糸状体は分裂し“殻胞子(かくほうし)”を放出します。この殻胞子が海苔のタネにあたります。
この殻胞子を網に付けるのが“タネ付け(採苗:さいびょう)”です。

糸状体の熟し状態を顕微鏡で確認しながら、胞子の殻胞子(タネ)を厚くもなく薄くもなく網に付ける作業は、海苔作りの第1の難関といえます。
このタネ付けには、陸上採苗と海上採苗の2種類があります。

陸上採苗

陸上採苗は、9月中旬から始まります。大きな水槽にかき殻糸状体を入れて、その上の水車に網を張り回転させてタネ付けることから“水車採苗”とも呼ばれています。タネを付けた網は、漁場の水温が適温(約23度以下)になるまで冷蔵庫で保存されます。理論的には夏場でもタネ付けが可能です。

  • 大きな水車をぐるぐる回しながらタネを付けます。赤い糸が海苔網です。
  • 網糸を切ってタネが付いたかどうか、顕微鏡で確認します。

海上採苗

熟した糸状体の付いたカキ殻1~2個を入れた“落下傘(らっかさん)”と呼ばれるビニール袋に入れて、30~35枚重ねた網の下に吊します。
台風や長雨、残暑など自然的条件に大きく左右されやすく、水温と胞子の放出のタイミングをうまくあわせることが、その年の海苔の良し悪しを大きく左右する鍵となります。

  • カキ殻糸状体は乾くと死んでしまうので、大勢の人で乾かないうちに素早く落下傘に入れ、海苔網に付けていきます。
    海苔網の大きさは長さ18m×幅1.5m。
  • 落下傘に吊るした網を一斉に漁場に張り込みます。朝日が当たる頃、カキ殻から胞子が出て網に付着します。
    網の間に白く見えるのがカキ殻糸状体を入れた落下傘の袋です
  • 網に付着した海苔のタネを顕微鏡で見たところ。光って見えるのが海苔のタネ。(蛍光顕微鏡写真)

FLOW 03

生産者はこの頃(育苗期)に一番神経を使うといいます。この時期は年によっては残暑があったり、台風が襲来したり、気温、水温とも甚だ不安定の上、比重の急激な変化も起こりやすい時期でもあります。これらを乗り越えて初めておいしい海苔が作れるのです。

タネをつけた海苔網は、網を重ね張りした状態で海苔の芽を育て、珪藻やバクテリアの付着に注意しながら網の重ね枚数を減らしていきます。近年は、漁場に流れ込む河川の上流にダムができて、栄養分たっぷりの河川水の流量が減少したり、川の護岸工事により流域の田畑からの肥料分を貯めた雨水が少なくなっているため、海苔の芽を育てている頃から、海苔が栄養不足になることもしばしば。海苔が栄養不足になると、海苔独特の黒いツヤがなくなってしまいます。有明海の海苔の不作は記憶に新しいと思います。

このように自然と共生しながら、網に海苔の芽が2~cm位出てくれば養殖網を一部を残して残りの網は冷凍保管します。

  • 支柱式養殖は遠浅の漁場で行われ、網の干出を頻繁に行うことが大きな特徴です。支柱式漁場の代表格である有明海は、6mもの干満差があり干潮時には岸から2km先でも人間が立つことができます。
    海底に長さ3~5mの杭をひと小間(網の大きさ)に約20本立てます。昔は竹や丸太を使って人力で立てましたが、現在はプラスチックポールが主流で機械で立てています。
  • 浮き流し式養殖は、幼芽がある大きさ以上に生長すると、必ずしも干出を与える必要がなくなるという海苔の特性をいかしたもので、網の周囲に浮きを付け海底に錨で固定し網を海面に浮遊させる方法です。
    育苗期は定期的な干出を人工的に与えて健全な芽を育てます。大産地の兵庫、香川は1970年以降浮き流し式養殖によって開拓された漁場です。
  • 冷凍するために陸揚げされた網。半日ほど乾かしてから冷凍庫へ。

FLOW 04

海苔の芽は、半月ほど経つと海苔は20cmぐらいに伸び、収穫できるほどの長さになります。産地によって収穫時期は異なりますが、早い産地は10月下旬、遅い産地は12月上旬から始まり、翌年の4~5月まで収穫は続きます。この頃には、重ね張りしていた海苔網も1枚網となり、海には広大な海苔畑が広がっていきます。

一度収穫した海苔網はその後2週間で再収穫が可能になります。このサイクルを4回程度繰り返して、冷凍しておいた次の海苔網に交換します

  • 20~25枚に重ねられていた網は、20枚、15枚、10枚、5枚と徐々に重ね枚数を減らし1枚張りに展開していきます。
  • 昔は手やハサミを使って収穫していましたが、現在では刃のついたピアノ線を回転させる摘採機で収穫を行っています。写真は、摘採機を摘んだ船が海苔網の下に潜り込んで海苔を摘み取る様子です。この船は“もぐり船”と呼ばれ、網1枚を約1~3分で摘採することができます。
  • これが海苔の葉体です。このぐらいの大きさになると摘採が始まります。

FLOW 05

陸揚げされた海苔は、生産者の加工場へ入ります。

収穫した海苔は付着しているごみを取り除いてミンチで細かく裁断された後、1枚当りの重さが320~340gになるように調合されます。さらに、真水で塩分を洗い落として、抄製機(しょうせいき)にかけられます。この抄製機は海苔簾(す)の上に和紙のように海苔を抄き上げます。

簾の上に抄かれた海苔はスポンジでやさしく脱水され、乾燥機にかけられます。水分が約10%になるまで乾燥し、乾燥した海苔は海苔簾から丁寧にはがされます。この時、簾に当たっていた方が少しざらざらした面になります。10枚ずつ重ねて半分に折り(1帖)、さらに10帖重ねて紙紐で結束します(1束)。1箱36束入りで各漁業協同組合に出荷されます。

最近では、一台で抄き・脱水・乾燥・剥ぎまで一連の工程を繰り返す全自動のり乾燥機が普及しています。

  • 抄き・脱水・乾燥・剥ぎまでの一連の工程を1台でこなす全自動のり乾燥機。昭和52年頃から登場し、現在ではほとんどの生産者に普及しています。
  • 陸揚げした海苔の原藻には珪藻が付着しているため、まず海水でキレイに洗って珪藻を除去します。その後、真水で洗浄し、細かくミンチ状に裁断します。
  • ミンチされた海苔は、ノリ簀に流し込まれ抄き工程へ。抄かれた海苔は、直ちにスポンジで脱水されます。
  • 乾燥装置に入り、熱風で水分を10%前後に乾燥させます。40~80℃の温度を保ちながら約2~3時間かけて乾し上げます。
  • 乾し上がった海苔は、検出機で品質チェックが行われ、10枚ずつ(1帖)に2つ折りされ、折り曲げられた海苔は10個(10帖)で1束にされます。各漁連に出荷するときは、36束(3600枚)ずつ段ボールに詰めて出荷します。

FLOW 06

各漁業協同組合に集められた海苔は、金属探知機を使って異物混入のチェックを行い、熟練の検査員が目視によって色、ツヤ、味などの品質を厳しい検査します。検査後、各漁業協同組合が持つ独自の規格と等級に基づいて、同じ品質同士をA~Zランクという具合に、海苔をランク付け(格付け)します。ランクの高い海苔は、当然値段も高いということになります。

  • 漁業協同組合へ持ち込まれた海苔は、金属探知機を通して等級検査場へ。
  • 等級検査が行われている様子。
    検査員は、並んでいる束の列から無作為に1束抜き取り、表面の色ツヤを確認します。裏面を見たり、揉んだり擦ったりして手触りも確かめます。

FLOW 07

等級が付いた海苔は各漁業協同組合が主催する入札会に集められます。この入札には多くの商社や加工メーカーが参加して、品質に応じた値段をつけるのです。
品質ごとに区分けされた海苔の見本場(見付場(みつけば)と呼ばれる)で、海苔の商社は数時間かけて、自社の商品に合うかどうか丹念に海苔を見分けて入札します。つまり、一番高い値段をつけた会社がその海苔を購入するわけです。

  • 全国の加工メーカーや海苔問屋が集まる見付場。

FLOW 08

入札で購入した海苔は水分が10~12%あるため、焼き加工を行うために水分を2%前後にまで二次乾燥(火入れ)します。
その後、防湿容器に入れて保存します。
“焼く”“味をつける”“裁断する”の3工程が海苔の加工の基本です。各加工メーカーは、お客様のニーズに応じて焼き方や味付けのタレ、用途に応じての裁断方法などを工夫しています。これらの工程は、オートメーション化されているメーカーが大半ですが、最終的には人間の目で商品の容量、安全性は確認します。

FLOW 09

長い工程を経て、ようやく出来上がった海苔は、スーパーや百貨店などの小売店のほか、
米菓メーカー、コンビニ、街のお寿司屋さんなど、さまざまなお店へ出荷されます。
それぞれのお店で、それぞれの味わいで、おいしい海苔をお召し上がりください。

CYCLE

「海苔」を広辞苑で調べると“水中の岩石に着生し、苔状をなすもの総称”とあるように、海苔は分裂を繰り返して成長する海藻です。現在、市販されている海苔の大半は、養殖で生産されています。

海苔の養殖が始まった江戸時代は、海苔のライフサイクルがわからず、漁師の経験と勘のみが頼りで生産量も不安定。そのため、海苔は「運草(ウングサ)」と呼ばれていました。

昭和に入り、イギリスのドリュー女史が海苔のライフサイクルを解明し、確実な養殖技術が普及。時代とともに海苔作りも次第に機械化が進み、現在では100億枚の安定生産体制をキープしています。

海苔のライフサイクル